コラム:トランプ氏の金融規制見直し、結局は肩透かしか
Gina Chon
[ワシントン 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が3日、2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)を見直すための大統領令に署名したことで、ウォール街はにわかに希望に包まれた。しかし大統領令は具体性に乏しい上、規制緩和は民主党の猛反発に遭いそうで、肩透かしの変更に終わるかもしれない。
トランプ大統領は、過度な金融規制によって企業が銀行から資金を借りられなくなっていると主張した。国家経済会議(NEC)委員長に指名されたゴールドマン・サックス出身のゲーリー・コーン氏も大統領に加勢。ゴールドマン株は3日に約5%上昇し、ウォール街は沸いた。大手6米銀は昨年、規制上の所要最低額を1300億ドル上回る資本を積むよう迫られていた。理論上はこの上積み分が株主に還元される、あるいは貸し出しに回る計算とあって、投資家は舌なめずりしている。
しかし、大統領令が財務長官に指示しているのは単に、規制機関と協力して規制を見直し、経済成長に資するなど一定の原則に沿う内容にすることだ。財務長官は120日以内に報告書をまとめることになっているが、長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏はまだ上院の承認さえ得ていない。
しかも、ドッド・フランク法に大きな変更を加えることができるのは、同法を成立させた議会だけだ。大半の変更には上院議員60人の賛成が必要になるが、共和党はそれに8議席足りない。リベラル派の議員らは変更阻止に向けて結集しつつある。下院民主党トップのペロシ院内総務は6日に記者会見を開き、トランプ氏の政策について「ウォール街ファースト」だと批判した。
下院金融委員会のヘンサリング委員長(共和党)も、大統領とは別にドッド・フランク法の見直し案を提出したが、こちらは銀行を悩ませる内容。多くの規制を免除する条件として、銀行に現行より高い10%のレバレッジ比率(自己資本比率)を義務付けるものだ。また、巨大銀行は連邦準備理事会(FRB)のストレステスト(健全性審査)により、株主還元の面で制約を受け続ける。
一連のハードルを勘案すると、ドッド・フランク法の見直しは小幅にとどまりそうだ。自己勘定取引を制限する「ボルカールール」は緩和、あるいは撤廃される可能性があり、地銀や小規模行は一部の規制を免れるかもしれない。銀行とその批判派の双方が失望する結果に終わりかねない。
●背景となるニュース
*トランプ大統領は3日、規制当局にドッド・フランク法の見直しを求める大統領令に署名した。(1)経済成長への貢献、(2)税金による銀行救済の回避、(3)米企業の競争力確保──といった特定の原則に合致しているか否かという観点から見直す。財務長官は金融安定監督評議会(FSOC)メンバーの助言を得て120日以内に大統領に対する報告書をまとめる。長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏はまだ上院に承認されていない。
*下院民主党トップのペロシ院内総務は6日、記者会見を開き、トランプ氏は「ウォール街ファースト」だと述べて大統領令を批判した。
*ヘンサリング下院金融委員長は大統領とは別に、ドッド・フランク法の規則の多くを変更する法案の修正版を準備中。昨年9月に提出した最初の案では、銀行がレバレッジ比率を10%以上に保つことに同意すれば多くの規則を免除するとしていた。この比率は現行よりも大幅に厳しい。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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