コラム:入国制限で米企業が窮地、反対と沈黙の双方にリスク

コラム:入国制限で米企業が窮地、反対表明と沈黙双方にリスク
 1月30日、トランプ米大統領が難民受け入れ凍結やイスラム圏7カ国からの入国制限を大統領令で指示したことで、米企業はジレンマに直面している。写真は、同大統領の難民らの入国を制限する大統領令に抗議する人たち。NY市で29日撮影(2017年 ロイター/Stephanie Keith)
Antony Currie
[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が難民受け入れ凍結やイスラム圏7カ国からの入国制限を大統領令で指示したことで、米企業はジレンマに直面している。
ハイテク業界やゴールドマン・サックス、スターバックスなどは、大統領の方針を批判したため、今後政治的な攻撃対象となるかもしれない。ただし沈黙したままでは、顧客やこれから入社しようとする有望な人材から愛想を尽かされかねない。
大統領令に反対の態度を鮮明にした企業は、トランプ氏からのツイッターなどを通じた悪口雑言がエスカレートするのではないかと思うだけで既に薄氷を踏む思いだ。
さらにはトランプ氏や彼の政策を支持する顧客を失う恐れもある。昨年11月の大統領選挙後に、ペプシコはヌーイ最高経営責任者(CEO)が娘や一部の従業員が「喪に服している」と語ったことから、不買運動をさらされた。スターバックスもシュルツCEOが世界中で1万人の難民を雇用する方針を表明し、ペプシコと同じような批判を浴びた。
だからといって入国制限に対してずっと声を上げないこともリスクを伴う。配車アプリのウーバーは、大統領令に抗議するためニューヨークで行われたタクシーのストに加わらなかったため、顧客から袋叩きにあい、ソーシャルメディアでは「ウーバーを削除」というハッシュタグが生まれた。その後同社のカラニックCEOは、移民制限の影響を受けるドライバーを守る基金に300万ドルを贈与したと明らかにした。
同業のリフトは既に米自由人権協会(ACUL)に100万ドルを寄付している。
若いユーザーや顧客を開拓している多くの企業はこれまで何年もかけて、ミレニアル世代やさらに年少の「ジェネレーションZ」に魅力を持ってもらえるよう努めてきた。こうした世代は、企業が社会問題に高い意識を持つことを期待しており、それが企業側が働く環境を改善し、温暖化対策や貧困撲滅への取り組みに熱心になる理由の1つだ。2015年にはインディアナ州の同性愛者を差別する法律に反対を唱えたこともある。
企業にとって、この36歳未満のデジタル機器に慣れ親しんだ層は単なる商品の買い手だけでなく、採用対象としても不可欠な存在だ。そうした若者が働き手になっている事実とともに、出身国が多岐にわたっている点から、ハイテク業界が移民を巡る論争で前面に立つことが多い。ところが30日には自動車大手のフォード・モーターまでもが、入国制限は「われわれの価値に反する」と明言した。フォードは自動運転車やコネクテッド・カーの技術開発でハイテク業界と人材を奪い合っているほか、本社は米国でアラブ系の人口比率が最も高い地域に隣接している。
すべての企業は、経営トップの考えや従業員の利益、政治的な懸念と自社の目標をうまく釣り合わせていく必要があるだろう。対外広報部門や危機における情報発信のノウハウを提供する業者は、休む暇がなくなるに違いない。
●背景となるニュース
*前週末にかけて米ハイテク業界から、イスラム圏7カ国からの入国を制限するトランプ大統領の命令に対して反対する声が相次いだ。
*アルファベットのブリン共同最高経営責任者(CEO)は28日、サンフランシスコ国際空港での抗議集会に参加。同社のホームページは、第二次世界大戦中の日系人強制収容の不当性を訴える活動に携わったフレッド・コレマツの画像を掲載した。またアップルやフェイスブックとともに、従業員に対して大統領令への批判行動を呼びかけた。
*配車アプリのリフトは、米自由人権協会(ACLU)に100万ドルを寄付し、ニューヨークで行われた入国制限に抗議するタクシーのストに参加しなかったと非難された同業ウーバーも、移民規制で影響を受けるドライバーの法的権利を守るための基金に300万ドルを贈与した。
ウーバーのカラニック氏は、電気自動車のテスラのマスクCEOと共同で、トランプ氏の政策諮問委員会に大統領令に関する業界の懸念を提起した。カラニック、マスク両氏は同委員会のメンバー。
*スターバックスのシュルツCEOは、29日付の従業員宛てメールを通じて世界中で1万人の難民を雇用する方針を表明した。ゴールドマン・サックスのブランクファインCEOは30日、従業員に対して「入国制限はわれわれが支持する政策ではない」と伝え、ゼネラル・エレクトリック(GE)のイメルトCEOは入国制限に従業員が抱いている「懸念」を分かち合うと述べた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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