コラム:トランプ氏の「アメとムチ」、企業はどう対応すべきか

コラム:トランプ氏の「アメとムチ」、企業はどう対応すべきか
 1月25日、一部の企業を攻撃し他の企業を称賛するトランプ氏(写真)のやり方は、一部のエコノミストが「縁故資本主義」と呼ぶものではないかという疑問を呼び起こし、経済成長を重視する同氏の公約に楽観的になってもいいはずの企業幹部を動揺させている。インディアナ州で昨年12月撮影(2017年 ロイター/Chris Bergin)
Bruce Freed and Charles Kolb
[25日 ロイター] - 大統領就任4日目、自動車メーカー各社と会談したトランプ大統領は、経営幹部らとの協力に前向きな姿勢を示した。
しかしこれは、トランプ氏がツイッター投稿や就任前の記者会見で見せてきた、一部の企業を攻撃し他の企業を称賛する態度とは著しい対照を示している。
1月11日の記者会見でトランプ氏は、製薬各社が「殺人の罪を免れている」として同業界を攻撃した。主要な製薬銘柄はただちに下落した。
その翌日、トランプ氏はツイッターで、LLビーンの取締役である創業者一族の1人から受けた政治的支援に感謝したうえで、「(米国民は)LLビーンの製品を買うべきだ」と投稿した。このツイートを受けて、米国を象徴する企業の1つであるLLビーンは、国民を二分する議論に巻き込まれた。
トランプ氏が大統領として用いるメッセージを試しているのか、それとも日頃の習慣を開始したのかはさておき、彼は自らの「公的な立場」を使って一部の企業に警告を発し、他の企業を称賛している。
こうしたトランプ氏のやり方は、一部のエコノミストが「縁故資本主義」と呼ぶものではないか、また報復政治ではないか、という疑問を呼び起こし、経済成長を重視するトランプ氏の公約に楽観的になってもいいはずの企業幹部を動揺させている。
7年前の連邦最高裁判所による「シチズンズ・ユナイテッド」判決により、企業の政治献金に関する制約が解除された。2016年の大統領選挙の過程で、選挙費用は2012年当時の63億ドルから70億ドル近くにまで高騰した。
今日の米国企業は、連邦政府の介入に見られる企業たたきやえこひいきに関する懸念の高まりにどのように対応していくのか。またトランプ氏のLLビーン称賛は、企業による政治関与へのインセンティブを高めることになるのだろうか。
トランプ氏は雇用拡大という課題を打ち出すなかで、空調機器製造のキャリア、航空機製造のボーイング、自動車製造のフォードといった企業の経営者を攻撃してきた。ある分析では、1月11日、S&P500社に含まれる製薬企業大手9社の株式時価総額は、トランプ氏による記者会見が行われた20分間で246億ドルという驚異的な減少を見せたという。トランプ氏は、製薬各社が政府に請求する薬価があまりにも高いと述べたのである。
トランプ氏は1月12日、LLビーンを称賛するツイートを投稿し、反トランプ団体の「グラブ・ユア・ウォレット」は、ボイコット対象企業のリストにLLビーンを追加した。LLビーンのある幹部はただちに、取材するメディアに対し、取締役の1人であるリンダ・ビーン氏がトランプ氏を支援する政治団体に数千ドルを寄付したという事実はあるものの、企業としては「政治的な応援や献金をまったく行っていない」と表明した。
活力あふれる成長志向の資本主義体制には、企業が、政治分野や政治資金ではなく、市場における最適な競争手法に集中するような公正な競争条件が必要である。多くのエコノミストは、縁故資本主義は米国企業にとって有害な不確実性をもたらすと信じている。また、政府由来のリスクと企業による政治献金の増大とのあいだの相関関係を示唆する学術研究もある。
では、米国企業はどのように新大統領の権力乱用に対応するのだろうか。トランプ氏が、ある企業の取締役からの政治献金を受けた後、ツイッターのフォロワー数百万人に対し、その企業の製品を購入するよう促す場合、企業経営者はこれを献金の返礼としての支援であると考えるだろうか。
それとも、選挙遊説中、既存の選挙資金制度は「壊れている」と発言しつつ、「何であれ、政治家にやらせたいことがあるならば」政治献金をすればいいと豪語していた、疑い深いトランプ氏の意見に耳を傾けるのか。
トランプ氏就任に際して企業が行った政治献金の状況を考える限り、これは無意味な問いかけではない。報道によれば、トランプ氏による批判の俎上にのぼったボーイングは100万ドルの献金を約束し、新政権のエネルギー政策・規制政策に大きな影響を受けるシェブロンは50万ドルを献金したという。またタイムワーナーとの合併を目指しているAT&Tは、すでに献金を行ったことを認めている。
新大統領と連邦議会が、企業に関わる意志決定の際にどのようなファクターを考慮するのか、それを判断するのは時期尚早である。その一方で、企業は、経済成長の推進とともに自らの存続にもプラスになるよう、自社、株主、そして民主主義を守るための現実的な行動を取ることができる。
いつ政治献金を行ったか透明性を高めること、そしてこのような支出に関して明確な方針を採用することが、企業が取り得る最も重要な2つの対策である。というのも、現状では、「シチズンズ・ユナイテッド」判決における主要な約束の1つが実現されていないからだ。
「シチズンズ・ユナイテッド」判決における裁判所の多数意見として、アンソニー・ケネディ判事は、企業によるほぼ完全に無制約な政治献金に道を開いたが、その一方で、現代のテクノロジーをもってすれば「迅速で充実した情報開示」を実現できると主張した。だが、後者の約束についてはまだ実現していない。
主として「シチズンズ・ユナイテッド」その他の判例を背景として、2016年の米国における選挙では、選挙資金の支出が過去最高を記録した。
記録的なコストの大部分を使ったのは、民主・共和いずれの党とも公式には関係を持たない外部団体であり、そのなかには、出資者の開示を法的に義務づけられていない団体も含まれている。「ダークマネー」と呼ばれることの多い秘密主義の政治資金だ。こうした団体は寄付者の身元を伏せることができるので、寄付を行ったことを知られたくない、やはり秘密主義の企業などにとっては魅力的なルートである。
たとえば強力な財界団体である米商工会議所は、政治的な支出の資金源を隠しておくことが法的に認められている。商工会議所は2016年の連邦下院・上院選挙への働きかけとして約3000万ドルを支出した。
また、いわゆる「社会福祉」団体は、重大な問題に関する意見広告を出し、ときには候補者を批判することもあるが、やはり寄付者の身元を伏せることが認められている。2016年の政治的な「ダークマネー」は、合計で少なくとも1億3200万ドルに達したものと予想されている。
連邦最高裁が「シチズンズ・ユナイテッド」判決で支持した、広範で効果的な情報開示という約束が果たされる日は、依然としてだいぶ先になりそうだ。選挙に影響を及ぼすことを意図した企業からの献金の流れがどの程度太いかを測定することは不可能である。
だが、別のレベルにおいては、情報開示された支出に注目することで、企業による政治への関与の規模をつかむことは可能である。つまり、政治的な行動に踏み切る企業がますます増えている、各州のレベルである。
2014年の上院・下院選挙では、各州の候補・委員会に対する企業方面からの献金は11億ドルに達した。これに比べて、同じ時期の労働関連団体による献金は2億1500万ドル、政治思想または特定の問題に関する団体は1億3700万ドルを費やしている。
企業が政治献金に関する透明性を高めておけば、わが国のように対立が激化している政治風土において反発を招きかけない資金拠出や、評判を傷つける可能性のある無分別な拠出への対策を取ることができる。政治資金の拠出について明確な方針を定めておけば、選挙における候補者からの公式・非公式の圧力を防ぐことができる。会社の方針を盾に「ノー」と言えるからだ。
これらの対策は、自律性のある企業のあいだで本格的に採用されつつある。最近S&P500社を対象に行われた超党派的な調査では、305社が政治献金の一部またはすべてについて情報を開示していたことが報告されている。111社では、政治献金については取締役会による監督が必要とされていた。そして143社では、政治献金について何らかの制限が設けられていた。
トランプ氏は企業を罵倒・批判するために今後も自らの立場を利用すると思われ、縁故資本主義に対する懸念も高まり続けるだろう。
そうなった場合、企業は「ビジネス・ラウンドテーブル」の示す指針に従うことにより、自社の立場と誠実さを保つことができる。この指針では、企業の取締役会が政治献金について監督すること、また情報開示方針の採用を検討することを推奨している。控えめなアドバイスではあるが、トランプ氏が次に引き起こす「嵐」の標的となった企業の助けにはなるかもしれない。
*筆者の1人、Bruce F. Freedは「センター・フォー・ポリティカル・アカウンタビリティ(CPA」代表。もう1人の筆者であるCharles E. M. KolbはCPA理事。Kolbは1997年から2012年まで経済開発委員会の委員長、1990年から1992年まで、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領のもとで国内政策担当次席顧問を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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