コラム:米原発閉鎖が告げる「採算性メルトダウン」

コラム:米原発閉鎖が告げる「採算性メルトダウン」
 1月9日、米国では原子力発電事業の採算性が音を立てて崩れつつある。米電力大手エンタジー<ETR.N>はこのほど、ニューヨーク市北方にある原発の閉鎖に合意し、その理由として天然ガスが低価格で推移していることを挙げた。写真は閉鎖が決まったNY市近郊のインディアンポイント原発。2010年撮影(2017年 ロイター/Mike Segar)
Tom Buerkle
[ニューヨーク 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国では原子力発電事業の採算性が音を立てて崩れつつある。米電力大手エンタジーはこのほど、ニューヨーク市北方にある原発の閉鎖に合意し、その理由として天然ガスが低価格で推移していることを挙げた。
今後エンタジーに追随する原発事業者が増えていくのは間違いない。
エンタジーが閉鎖を決めたインディアンポイント原発は何十年にもわたって論争の的になってきた。1977年には発電所の変電施設近くへの落雷でニューヨーク市が停電に見舞われた。2001年9月11日の事件以降はこの原発も攻撃対象になりかねないとの懸念が広がり、東日本大震災の福島第一原発で起きた事故がとどめを刺す形で、インディアンポイント原発存続の政治的な支持はなくなった。クオモ州知事は、原発の周辺住民1700万人を避難させる方法はないと主張している。
01年9月11日の事件直前にインディアンポイント原発の買収を完了したエンタジーは何年にもわたって事業免許更新を求めてきたが、市場動向のために方針を転換せざるを得なくなり、21年までの閉鎖を決めた。潤沢なシェールガス供給により、卸売電力価格は過去10年で約45%も下がり、実質的にインディアンポイント原発の収入を年間5億7500万ドル前後も押し下げた。エンタジーにとって、もはや原子力の卸売電力販売は経済合理性を持たない。
他の電力会社も同じ結論に達している。この5年間で5カ所の原発が閉鎖され、2025年までに合計でさらに5カ所が廃止される。一方で東芝<6502.T>は、原子力事業に絡む減損処理を公表した昨年12月以降で時価総額が42%減少している。
テネシー川流域開発公社(TVA)は昨年10月に1.1メガワットの原発を開設し、現在はジョージア州とサウスカロライナ州で4基の原子炉が建設中。トランプ次期大統領は原子力発電セクターを拡大させたい考えだ。だが、同時に化石燃料への支持の方がより強いように見える。実際、閣僚には主要石油産地であるテキサス州前知事のリック・ペリー氏と石油大手エクソンモービルの最高経営責任者(CEO)だったレックス・ティラーソン氏を起用した。
排出権取引は、温暖化ガスを発生させない原子力発電に新たな価値をもたらすだろう。しかし現時点でそうした計画を推進しようと努力するのは、エネルギーの無駄遣いでしかない。
●背景となるニュース
・エンタジーは9日、インディアンポイント原発を2021年までに閉鎖することでニューヨーク州と合意し、原子力発電事業から撤退すると発表した。閉鎖時期は当初予定より10年早まった。
・ニューヨーク州のクオモ知事は、環境面の問題でインディアンポイント原発の稼働に反対しているが、エンタジーが原子炉2基を2020年と21年に閉鎖すると約束したことと引き換えに、事業免許更新を支持する意向だ。同原発はニューヨーク市から25マイル北にある。
・エンタジー幹部の話では、天然ガス価格が近年急落し、今後も低水準で推移するとみられるため、原発が経済的に存続不可能になった。
・ニューヨーク州は、原発閉鎖によって減った電力は送電システムの改良や従来型発電所の新設、カナダ・ケベック州の水力発電の輸入で補うとしている。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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