焦点:トランプ政権の顔ぶれ、本人そっくりの「ボス」ぞろい

焦点:トランプ政権の顔ぶれ、本人そっくりの「ボス」ぞろい
 12月16日、トランプ次期米政権の内閣は、大統領本人にそっくりの性格になりそうだ。写真は、国務長官に指名されたエクソンCEOのレックス・ティラーソン氏。テキサス州で昨年4月撮影(2016年 ロイター/Daniel Kramer)
[ワシントン 16日 ロイター] - トランプ次期米政権の内閣は、大統領本人にそっくりの性格になりそうだ。これまでに主要ポストに指名された21人の顔ぶれを見ると、年齢は高め、多くは白人男性で金持ち、リスクテークと商談成立の才覚を自負し、熟考より行動を重んじるタイプがそろっている。
米政府は既得権益に支配され、「壊れて」いると批判してきたトランプ氏は、概して政府経験の長い専門家を避け、各界の「ボス」を集めたチームを結成した。
閣僚指名者名簿から一目瞭然なのは、過去の大統領が起用してきたような知識人、弁護士、学会人といった人種が姿を消したことだ。代わりに登用されたのはエクソン・モービルやゴールドマン・サックスといった財界の重鎮ら、そして3人の元軍司令官も含まれている。
彼らの多くはこれまで自分の思い通りに事を進めてきたが、今後はトランプ氏というボスに仕える必要がある。しかも、時として動きが鈍く、肥大化した官僚組織を率いなければならない。
国務長官に指名されたエクソン・モービルのレックス・ティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO)と、国防長官に指名されたジェームズ・マティス中央軍司令官を知る元米高官は、閣内で大規模なエゴの衝突が起こると予見する。
ティラーソン、マティス両氏は「どんな場所に行ってもそこを牛耳ることに慣れ切っており、今度はシチュエーションルーム(緊急司令室)や、場合によってはオーバルルーム(大統領執務室)がそうした舞台に含まれることになりそうだ」という。
これまでに指名された21人中、16人は白人男性だ。女性は4人だが、最重要級ポストに指名された女性は1人もいない。アフリカ系、アジア系、インド系がそれぞれ1人で、ヒスパニックは皆無となっている。
数名は政府経験を持たず、自らが率いることになる機関に敵対的な人物もいる。
トランプ氏は、現場経験があって物言いが単刀直入という自己イメージに沿った内閣をつくっている、と話すのはプリンストン大の大統領史研究者、ジュリアン・ゼリザー氏。「周りを軍人や商売人で固めていることから、明確なメッセージが読み取れる。冷酷非道な交渉人というのは、トランプ氏が描く自己像そのものだ」という。
<行政に切り込む>
ホワイトハウス未経験の次期閣僚指名者らを知る人々は、彼らが従来の行政に切り込むと予想している。
保健福祉長官に指名されたトム・プライス共和党下院議員について、同じく共和党議員のトム・コール氏は「生まれながらにして決断力がある」と評する。
住宅都市開発長官に指名された元神経外科医のベン・カーソン氏について、元同僚のヘンリー・ブレム氏は「冷静」で直言を恐れない人物だと説明。「彼は紳士で、率直に語る。着想は壮大。そして世界中だれ1人として彼を脅すことなどできない」と述べた。
エネルギー長官に指名されたリック・ペリー氏は、テキサス州知事を3期務めた人物。テキサス大のテキサス政治プロジェクト学部長、ジェームズ・ヘンソン氏によると、ペリー氏はこれまで「非常に保守的でイデオロギー色を強める草の根の支持層と、非常に強い影響力を持つ財界のバランス」を取ってきた。
しかしヘンソン氏は「官僚に囲まれ、明らかに大きなエゴがしのぎを削る内閣という環境でもそれができるかどうかは、別の問題だろう」
と見ている。
財務長官に指名された元ゴールドマン・サックス幹部のスティーブン・ムニューチン氏は、世界金融危機で破綻した住宅金融機関のインディマックを2008年に買収し、ワンウエストという社名で新生へと導いた。
投資会社幹部のケビン・ケリー氏は、実業界におけるこの種の機転が、政権の活性化にいかせるかもしれないと見る。高レベルの企業経験を持つ人々は、株主、取締役会、従業員、地域社会のいずれも満足させる必要があり、「非常にきちんとしていて熱心な人物でなければつとまらない」からだという。
<過剰な破壊>
しかし、外部からの閣僚起用がこれまで必ずしも成功を収めてきたわけではない。ジョージ・W・ブッシュ元大統領が2001年、財務長官に任命した元アルコアCEOのポール・オニール氏は、経済政策についての不用意な発言で市場を混乱させ、最終的に更迭された。
ブルッキングス研究所の政権運営専門家、トーマス・マン氏は「大規模な公的機関の運営は本当に難しい仕事で、経験と知識の豊富な人材を参加させる必要がある上、人々を疎外しないようなやり方で取り組まなければならない」と話す。
トランプ氏の経済顧問であるアンソニー・スカラムッチ氏自身、あまりにも経験不足の人物ばかりでは、未熟な次期政権に害をもたらしかねないと認める。「ワシントンというのは非常に健康な免疫系だ。既成体系の破壊者を数多く投入し過ぎると、臓器が本格的な拒否反応を起こすだろう」と語った。
(James Oliphant記者 Emily Stephenson記者)

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