アングル:米国で被害拡大、インド発「振り込め詐欺」の手口

[ムンバイ 30日 ロイター] - 9月下旬、カリフォルニア州ナショナルシティに住む女性の電話に留守電メッセージが入っていた。「脱税または租税詐欺」に関して米内国歳入庁(IRS)がその女性を調査している、という内容だ。
仰天した女性は、メッセージに残された番号に電話し、IRS職員を自称する男に、請求された金額の半分に当たる「500ドルなら払える」と告げた。「分割払いなら。一度に全額は払えない」と。
「本日500ドルの支払いで構わない。それなら大丈夫か」と男は尋ね、弁護士が彼女の口座を調査し、月ごとの分割払い計画を作成することになるが、半分はただちに払わなければならない、と告げた。
捜査官がロイターに示した会話記録によれば、その男は彼女に、電話をつなげたまま、近所の雑貨店で「iTunes(アイチューンズ)」で使える500ドル分のギフトカードを購入し、「代理人」にカードに記載されているコードを教えるよう指示した。
こうしてその女性は詐欺に引っかかった。
米司法省によれば、2013年以来続いている「大規模で複雑な詐欺」の被害者は少なくとも1万5000人、被害総額は3億ドル(約343億円)以上に達するという。司法省は先月、インドと米国の56人に対し、大陪審告訴を起こした。容疑は、インドに所在する偽装コールセンターを拠点とする「電話詐欺」である。
米国内で20人が逮捕された一方、インド当局は10月、ムンバイ市郊外のターネーにある3カ所の施設に強制捜索を行い、75人を逮捕した。起訴内容は、共謀による身分詐称、米国公務員へのなりすまし、有線通信の不正行為、資金洗浄などである。
インド警察は、サガル・タッカーという人物を探しているという。
「シャギー」とも呼ばれる30代前半の男性が詐欺の主犯格だと同警察では考えている。この男は米司法省が指名手配している容疑者のなかにも含まれている。ロイターはコメントを求めてタッカーへの接触を試みたが成功しなかった。彼が弁護士に依頼している様子は見られず、警察ではタッカーが先月ドバイに逃亡したと考えている。
ターネー警察署のパラグ・マネーレ副署長は、「タッカーに対するレッド・ノーティスを発行する手続を完了しようと努めている」とロイターに語った。「レッド・ノーティス」とは、国際刑事警察機構(インターポール)による逮捕令状である。
警察によれば、タッカーは詐欺行為で得た利益によって贅沢な生活を送っており、5つ星ホテルを頻繁に利用し、高級車を乗り回しているという。ガールフレンドに2500万ルピー(約4180万円)相当の高級車アウディR8をプレゼントしたほどだ。
捜査に参加しているFBIはコメントを拒否した。米司法省もコメントしなかった。レスリー・コールドウェル司法次官補は先週、米国はインド国内の容疑者の送還を求めると表明し、同様の詐欺行為に関与している者は実刑判決を受ける可能性があると警告している。
米司法省による起訴以前に行われた取材を通じて、警察、容疑者、そしてインドのコールセンター従業員らは、詐欺のしくみについてロイターに語った。
高齢者や騙されやすい人々につけ込むこの作戦について、コールセンターの指導員により研修目的で作成されたとみられる研修教材と録音された会話が、ある程度の手掛りになると捜査官は考えている。
<「厳しく接するよう教えられた」>
「稼ぎは読めなかった。良い日もあったし、ダメな日もあった」。 ある偽装コールセンターの運営を管理していたというHaider Ali Ayub Mansuriは、裁判所による拘留期間延長でインドの刑務所に戻された先週、ロイターに語った。インド警察が逮捕した75人の1人だ。
「好調な日には、たった1人のアメリカ人から2万ドルも引き出したことがある」と彼は言う。
インドでは、この詐欺作戦の規模の大きさに多くの人々が驚いた。
ターネーにある複数のコールセンターでは数カ月にわたり、数百名の若い男女が夜間働いていた。通話担当者は内国歳入庁の職員をかたり、おもに新来の移民や高齢者などを狙って脅し、ギフトカードを購入させてコードを転用するなどの電子的方法によって虚偽の追徴税を払わせていた、とインド側の捜査官は説明する。
「何千人もの市民に録音したメッセージを送信し、折り返し電話するよう求める。相手が電話してきたら、こういうコールセンターで対応する」とターネー警察のマネーレ副署長は説明する。
内部告発を受けた警察は10月初旬、コールセンター従業員の勤務時間帯に、施設の強制捜索を行った。関連ビルには7カ所のコールセンターが設けられており、数日間で700人以上が拘束された。大半はその後釈放されたが、市内から出ることを禁じられている。
電話では、被害者に対し、逮捕や投獄、家屋の差押え、パスポート押収などの脅しをかけていた。
払う金がないと「高齢の女性が泣き出してしまったことがあった」と元コールセンター従業員は語る。「だが金を要求し続けた。厳しく接するように教えられていた」と彼はロイターに語った。
ムンバイの北500キロにあるアフマダーバードで追加の強制捜索を行った警察は、マネーレ副署長に言わせれば「これらのコールセンターの中枢神経」と考えられるものを発見。「巨額の金が取引されていた。(詐欺は)ここ数年続いていたと見られる」
警察による強制捜索は、記録という意味では、若干の研修用資料を除きほとんど収穫がなかった。ペンや携帯電話の持ち込みをコールセンターのマネジャーが禁じていたからではないか、と別の元従業員は推測する。
ロイターはコールセンター従業員の説明を独自に確認することはできなかった。
<毎週のインセンティブ>
経済学部の卒業生だという別の元従業員は、センターが何をやっているのか知らずに就職したという。月給1万2000ルピー(約2万円)は大卒者の標準からすればかなり低いが、それでも仕事は仕事であり「今は就職難だから」と彼女は語った。
最初の1週間はフロアマネジャーが付き添う研修だったという。通話担当者が被害者に電話をしているあいだ、何十人もの研修生は部屋の一角で肩を寄せ合い、通話に使う問答集を暗記しなければならなかった。
別の元通話担当者は「手っ取り早く稼げた」と語る。捜査官が確認したコメントによれば、この元従業員は「1ドル入金されるたびに2ルピー(約3円)もらえた」と話している。
従業員たちはうさんくさい仕事を続けるよりも、辞めたがっていたが、マネジャーが毎週、目標達成した従業員に現金やちょっとした商品などの報奨をくれるので、続けていたという。
(Rajendra Jadhav記者, Euan Rocha記者、Rahul Bhatia記者、翻訳:エァクレーレン)

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