特別リポート:「これは戦争」比大統領の右腕、死者増加を予想

Andrew R.C. Marshall and Neil Jerome Morales
[ラウニオン(フィリピン) 4日 ロイター] - フィリピンのロナルド・デラロサ国家警察長官が、ルソン島の地区本部で警官に激励の訓示を行うと、彼らはプレゼントで応えた。それは、米映画「ブレイブハート」で俳優メル・ギブソンが使った剣のレプリカだった。
恰幅のよい長官はにやりと笑うと、自分の背ほどもある剣を振り回してみせた。仮設テントの拡声器からは「勇者の中の勇者」と彼をたたえる声が流れた。
54歳のデラロサ長官は、フィリピンのドゥテルテ大統領が推進する麻薬撲滅戦争を執行する立場にある。この作戦ではわずか3カ月間で3400人以上の死者が出ている。
フィリピンで面積・人口とも最大のルソン島をデラロサ長官が訪れたのは、この作戦の血なまぐさい最前線に立つ警官たちを鼓舞するために行われている視察の一環である。
「職務を遂行するよう、彼らを励まさなければならない」と長官は先月この視察を取材したロイター記者に語った。「これは戦争だ」
警察は3日、ドゥテルテ大統領氏が就任した翌日7月1日以来、麻薬撲滅戦争によって1375人が射殺されたと発表。また「捜査過程での死亡」として他に2066人が殺されていると報告している。人権活動家によれば、これらの多くは自警団による殺害だという。
ロイターでは、これらの数値の正確性、そして死亡数のうちどの程度が自警団による殺害なのかを確認できなかった。
この麻薬撲滅戦争は諸外国からの怒りを買っている。だがフィリピン国内では、犯罪にうんざりした国民からの称賛を浴びており、市民団体からの批判の声も大きくない。
フィリピンでは、汚職と暴力という悪評のため、一般的に警察が軽蔑や恐怖の対象となっているが、デラロサ長官の人気は高い。
国家警察庁長官に就任してわずか2カ月だが、国内メディアはすでに彼をドゥテルテ氏の後継候補としてもてはやしている。ただし、マーティン・アンダナール大統領広報官はこれを「憶測」と断じている。
ドゥテルテ大統領は麻薬密売業者の殺害をたびたび呼びかけており、デラロサ長官も扇動的な発言を繰り返している。
先月の演説では、麻薬常用者と密売業者に、貧困層を搾取することで富を築いた麻薬王たちを殺すよう呼びかけた。
「ここの麻薬王が誰だか知っているだろう。彼らの家に行き、ガソリンをかけて火をつけろ。怒っているところを見せてやれ」
デラロサ長官はこの「麻薬戦争」における作戦を熟知しているだけに、殺害に関して外部からの調査が行われる場合には重要な対象になる可能性があるとフィリピン人権擁護連合のRose Torajano事務総長は語る。だが、誰かがそのような調査を行うのかどうかは不明だ。
「彼は大統領の優秀な兵隊だ。だが彼にも恐怖感はあるだろう」と同事務総長は言う。
デラロサ長官は、警察の取り締まり中の殺害は合法であり、「捜査過程での死亡」の大半は麻薬シンジケートによる殺害であると確信しているとロイターに語った。「彼らはお互いに殺し合っている」
<プレッシャーを感じる>
個人的には、デラロサ長官は真剣ではあるが礼儀正しい人物であり、そして彼はプレッシャーを感じていると言う。
「私が心配しているのは、自分に期待されていることを完遂できないのではないかということだ」と彼はロイターに語った。
ドゥテルテ大統領は9月18日、麻薬撲滅作戦をさらに6カ月延長すると宣言したが、デラロサ長官は時間が足りないという焦りを覚えると語る。
長官によれば、作戦の最大の障害は、現地では「シャブ」と呼ばれている中毒性の高い麻薬、結晶メタンフェタミンの多数の常用者に対する更生サービスを提供すること。そして、麻薬の国内流入、特に中国からの流入を防ぐことだという。
「自首」と呼ばれる手続きによって、当局に届け出た常用者・密売人は70万人以上に及ぶが、支援制度や施設は極めて少ない。現地メディアの報道によれば、届け出た人々も多数殺害されているという。
デラロサ長官はロイターに対し、麻薬戦争による死者の数は増え続けると予想する。「日ごとに死者数は増えている。逮捕者も、自首する者も毎日増えている」
他国からの批判に対して、長官は苛立ちを示す。米国が殺害について「深く懸念」していると述べたほか、国連の専門家2人も、ドゥテルテ大統領が、国際法が禁じる暴力の扇動を行っていると告発した。
「彼らは私たちを殺人者に仕立て上げようとしている」と長官は言う。「本当に心を痛めている。私たちはフィリピン国民のために良かれと思ってやっているのに」
デラロサ長官によれば、麻薬撲滅作戦が開始される以前には、人々は恐がって家を出なかったという。「今、状況は逆転した。法律を守る人々が外に出て、犯罪者が隠れるようになっている。その違いが分かるだろうか」
だが、他の重大犯罪が減少する一方で、殺人率は急増。一部の地域住民はロイターに対し、警察と自警団による殺戮があまりにも怖いので、暗くなってからは外出しなくなったと話している。
<大統領との二人三脚>
以前はボクサーになることを夢見ていたというデラロサ長官は、ダバオ市の南にある故郷にちなんで「バト」という愛称で知られている。現地のタガログ語では「岩」という意味もある。
長官の亡父は輪タクの運転手で、彼を学校にやるのが精一杯の暮らし向きだった、と長官は6月フェイスブックに追悼文を投稿している。
ダバオ市はドゥテルテ大統領が22年にわたって市長を務め、苛酷な麻薬撲滅作戦を行った場所である。同市の警察で昇進するなかで、武闘派のデラロサ氏もこれに参加するようになった。
「私は彼のやることが気に入ったし、彼も私のやることを気に入っていた。それで、私たちは友人になった」と長官は回想する。ドゥテルテ氏が彼をダバオ市警察署長に据えたのは2012年である。
ダバオに本部を置く人権団体は、同市において自警団とみられる殺人が1424件あったと記録。そのうち162件が、デラロサ氏が警察署長を務めていた2012─2013年に発生した。
この調査結果について質問すると、長官は「調べてみる」と述べ、「そのようなデータは記憶にない」と付け加えた。
ドゥテルテ大統領は、他のもっと高位の警察官僚を飛び越えて、デラロサ氏を長官の座に据え、ダバオ風の苛酷な犯罪撲滅モデルを全国展開する自由裁量権を与えた。
<銃コレクター>
フィリピン国内のさまざまな民族が暮らす高地バギオに設けられた警察拠点で、デラロサ長官は部族風の髪飾りと衣装をまとい、麻薬撲滅の努力をたたえ、現地の警察官たちを表彰した。
何百人もの警察官が、長官と一緒に自撮り写真を撮りたがり、長官はそのたびに希望に応じた。人々の陰に隠れて、長官のトレードマークであるスキンヘッドしか見えないことさえあった。
だが、警察の宿営地でさえ長官は6人のボディガードに囲まれていた。彼は「(麻薬密売業者が)いつ私を殺しに来るか分からない」と語った。
長官は、国内人気トーク番組のインタビューのなかで、大学時代に2回マリファナを試してハイになったことがあるが、将来が台無しになると思ってやめたと語っている。
他のテレビ番組では、警察官としてのキャリアのなかで撃った人数について、「(警察)長官が殺人者だと言われかねない」という理由で答えなかった。
デラロサ長官を取材したことのある現地のジャーナリストたちは、同長官が喫煙や飲酒するところを一度も見たことがないと語る。彼の主な趣味は銃の収集だという。
「彼は銃を愛している」と語るのは、ダバオ市でデラロサ氏の部下だったアーロン・アキノ警視正で、現在は麻薬戦争関連で約500人の死者を出しているルソン島中心部で指揮を執っている。「彼はよい銃を見かけるたびに購入している」と話した。
(翻訳:エァクレーレン)
*見出しを修正して再送します。

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