コラム:韓国の海運最大手破たんで何が起きているか 

Allison Silver
[13日 ロイター] - 経営難に陥っていた世界でも有数の海運大手、韓国の韓進海運<117930.KS>が8月31日に法定管理(会社更生法に相当)を申請した。年間1億トンを超える貨物を運ぶ同社は6月末時点で、推定55億ドル(約5600億円)の債務を抱えていた。
<破たんの意味>
総額140億ドルを超える貨物がたなざらしの状態に陥っている。タグボートや荷役の業者が不払いを恐れているため、貨物の一部は、世界各地の港湾で荷降ろしもされないままだ。
米国行きの10数隻が港に曳航されていない一方、世界7位のコンテナ船社である同社船舶の半数以上が立ち往生している。米連邦破産裁判所は9日、ようやく荷主に貨物の回収を認める判断を下した。
一部の荷主はすでに代替案を立てている。例えば、韓国サムスン電子<005930.KS>は8日、2隻の韓信海運船舶に積まれた3800万ドル相当の貨物へのアクセスを得ようと裁判所に訴えた。サムスンはまた、同社製品を荷降ろしするために、少なくとも16機のチャーター機を借りることを提案している。費用は最低でも880万ドルだ。
<混乱いつまで続くか>
9日の判決をもってしても、すぐに混乱が収束すると期待してはいけない。消費者は今年の休暇シーズンに向け、さらなる出費を覚悟すべきだ。専門家は、韓進海運の船舶が破産管財人の管理下から離れるのは、少なくとも休暇シーズン後になると予測している。
また、貨物スペースに突如プレミアムが発生している。これはあらゆる品物の海運輸送費が上がることを意味する。早ければ10月にも、輸送コストが50%上昇するだろう。標準的な40フィートコンテナ貨物運賃は5月以降、788ドルから1700ドルへと、すでに倍増している。
法外な運賃は一時的なものだと予想されているが、消費者にとって、そのタイミングは最悪だ。休暇シーズン中は、家具からレンズ豆、靴からステーキに至るあらゆるコストが増加する可能性がある。
<なぜ破たんは起きたのか>
大きな環境変化の下で、コンテナ業界全体が深刻な問題に直面している。
2008年の金融危機以降、海運会社は大きな問題を抱えている。それは世界貿易が鈍化しているという事実以上のものだ。例えば、多国籍企業は世界各地に製品輸送するより、現地工場の建設に注力してきた。
その一方で、コンテナ企業は船舶数を競って増やし、破滅的な供給過剰を生み出すほど建造しすぎてしまった。また、もう1つの予期せぬ問題は、これらの船舶が原油価格高騰時に造られていることだ。そのため、船舶は巨大で航行速度が遅い。原油価格がこれほど低迷している状況では、これは役に立たない。
コンテナの過剰スペースは、これまで以上に海運会社の収益力を圧迫している。例えば、韓進海運は今年、輸送する各コンテナ当たり約100ドルの損失を被ってきた。巨大な「トリプルE」クラスの貨物船であれば20フィートコンテナを約1万8000個も積載できることを想像してみてほしい。
さらに、海運業界全体が近代化で遅れを取っている。
船舶が登場した1950年代には、ハイテクの代表だったかもしれない。しかし現在、最も効率よくコンテナを積み重ねる方法を生み出すソフトウエアも持たないことが多い。コンテナの正確な位置と中身を追跡するためのセンサーを、多くの会社が取り付けていないためだ。これは問題だ。船荷を積み込み、海に送り出す速さは極めて重要だからだ。
たとえ韓進海運の問題が解決したとしても、この先に明快な予想があるとは期待しない方がいいだろう。
*筆者はロイター・オピニオンのエグゼクティブ・エディタ―。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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