コラム:米大統領選、サンダース派が抵抗を続ける理由

コラム:米大統領選、サンダース派が抵抗を続ける理由
 7月26日、バーニー・サンダース上院議員の支持者が、これほど意固地に米民主党に対して波乱を起こしているのはなぜか。写真は同議員の支持者たち。ペンシルベニア州で撮影(2016年 ロイター/Adrees Latif)
[26日 ロイター] - バーニー・サンダース上院議員の支持者が、これほど意固地に米民主党に対して波乱を起こしているのはなぜか。党全国大会を妨害し、ヒラリー・クリントン候補の選挙運動を邪魔することは、共和党候補のドナルド・トランプ氏を利するだけだと理解していないのか。
その理由をお分かりだろうか──。彼らの多くは、それでも構わないと考えているのだ。
サンダース支持者の中には、民主党に忠誠心を持たない無党派の若年層が多い。サンダース氏自身も無所属で、上院の民主党と統一会派を作ることを選択した。サンダース氏の民主党への支持は暫定的なもので、意見が合わなければ独自路線を追求するのは自由だ。
今のところ、サンダース氏は、善良な兵士の役割を果たしている。12日にはクリントン氏支持を認め、「ヒラリーを次期大統領にするためには何でもするつもりだ」と正式に表明した。
25日にフィラデルフィアでサンダース派の代議員と面会した際には、「ドナルド・トランプに勝たなければならない。ヒラリー・クリントンとティム・ケーンに投票しよう」と訴えた。
この訴えに、支持者はブーイングを続けた。サンダース氏は悲しげに「皆さん、これが私たちの住む現実世界だ」となだめている。
しかし、多くの支持者にとっての現実は違っていた。民主党全国委員会(DNC)から党幹部がサンダース降ろしの策を練っていたことを暴露するメールが流出し、彼らの多くは激怒している。
このメールについて、DNCは公式に謝罪している。党幹部らは、この流出事件は、クリントン氏を妨害し、プーチン大統領お気に入りのトランプ氏を勝たせるために仕組まれた、ロシア側ハッカーの陰謀だと主張している。とはいえ、DNCはリークされた内容そのものは否定していない。
サンダース支持者の中には、もっと高度な論法を主張する人々もいる。「トランプを勝たせればいい。ひどい奴だが、どうせ1期で信用はガタ落ちだ」と彼らは言う。「トランプ大統領」が失敗すれば、4年後には進歩主義者がクリントン氏抜きの民主党を支配し、政権を握るチャンスが来るというのだ。
これは、まさにフランス語でいうところの「焦土戦術」だ。この場合、事態が悪化すればするほど好都合になる。党利党略を国益よりも優先する、悪名高いドクトリンである。
サンダース氏が支持者をなだめられるかどうかは不明だ。サンダース陣営の幹部は「DNCのやり口をめぐって騒動が起きるのは当然だ。支持者には品位をもって行動するよう説得するつもりだが、どう動くかは保証できない」と話す。
18日にはオハイオ州クリーブランドの共和党大会で、トランプ氏指名をめぐって対立が生じたが、大混乱にまでは至らなかった。民主党の党全国大会では、共和党とはまったく対照的な団結と調和が期待されていた。ところがメール流出事件が起き、サンダース派は「指名は茶番」と決め込んでしまった。
サンダース陣営の前広報担当者はこの疑惑を一掃しようと試みた。「はっきり言って、この選挙で誰も不正な手口は使っていない」
しかし、この説得もほとんど無駄だった。サンダース派は、クリントン支持を代議員に呼びかけるスピーチにヤジを飛ばした。サンダース氏は彼らに「議場では抗議活動は一切控えるべき」「せっかくの信用が失われてしまう」とのメッセージを送信せざるを得なかった。
そう、サンダース支持派は信用を得ているのだ。何しろサンダース氏の民主党予備選・党員集会での得票は1350万票で、共和党におけるトランプ氏とほぼ同数なのである。
サンダース派の一部は、クリントン氏への投票を拒否し、「緑の党」候補者に投票すると発言している。これはトランプ氏には追い風だ。リベラル派が緑の党のラルフ・ネーダー候補に投票したおかげで、ジョージ・W・ブッシュが勝利した、2000年の米大統領選と同じ構図である。第3の候補者に投票すれば、結局、一番嫌いな候補者を利する結果になるのが常だ。
こんな論理が成立するのは、勝つのがトランプ氏でもクリントン氏でも違いはない、どっちもどっちだと本気で思っている人だけである。
サンダース派のなかには、少数ながら、実際にそう考えている人もいる。こうした支持者は「政治革命」を標榜しており、クリントン氏の煮え切らない「漸進主義」手法にも反発している。反クリントン派はこれを「できない主義」と名付けている。
サンダース氏は、民主党の正式指名を受けられない情勢が確実になっても撤退を拒んだ。6月7日の予備選の直前にカリフォルニア州で行われたサンダース陣営の集会では、クリントン派が「バーニー、潔く負けを認めて!」というプラカードを掲げた。サンダース氏は結局撤退を受け入れたが、支持者が皆同意したわけではない。
たとえば男優のヴィゴ・モーテンセン氏は、「ヒラリーもトランプも五十歩百歩」と言い、緑の党に投票するという。
一方、女優のサラ・シルバーマン氏は、民主党全国大会でのスピーチで「『バーニー以外はダメ(Bernie-or-bust)』派の皆さん、くだらないことはやめて」と語り、「誇りをもって」クリントン氏に投票すると宣言している。
サンダース氏は25日夜の党全国大会で、「私たちは、米国を変えるための政治革命を始めたが、この革命、私たちの革命はこれからも続く」と演説した。
米国で政治革命を実現する唯一の方法は、一方の党が圧倒的勝利を収め、ホワイトハウスと議会を支配することだ。1930年のニューディール政策、1960年の「偉大な社会」、1980年のレーガン革命もこの形で実現した。
今年の大統領選では、トランプ氏への反発により民主党の大勝利がもたらされれば、そうした政治革命が実現するかもしれない。そのためには、サンダース派は、不愉快さを抑えて「ヒラリーを応援する」と言わなければならないだろう。
*筆者は米カリフォルニア大学ロサンゼルス校でコミュニケーション研究分野の客員教授を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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