コラム:プーチン大統領、米国政治への「揺さぶり」狙いか

コラム:プーチン大統領、米国政治への「揺さぶり」狙いか
 7月28日、内部告発サイト「ウィキリークス」が何万通もの米民主党の内部メールをリークした後、その首謀者としてロシアの名が挙がるまでそう時間はかからなかった。写真は、オバマ米大統領(左)を振り返るロシアのプーチン大統領(中央)。北京で2014年11月代表撮影(2016年 ロイター/Pablo Martinez Monsivais/Pool)
Peter Apps
[28日 ロイター] - 内部告発サイト「ウィキリークス」が何万通もの米民主党の内部メールをリークした後、その首謀者としてロシアの名が挙がるまでそう時間はかからなかった。
多くの点で、それはさほど驚きではないはずだ。米大統領選で共和党候補となったドナルド・トランプ氏とロシアのプーチン大統領の明らかに風変わりな関係は、専門家の間で関心の的となってきた。トランプ氏の政策や発言の一部、とりわけ北大西洋条約機構(NATO)への米国の関わり方に疑問を投げかけている点は、ほぼ間違いなくロシアの関心を引いているだろう。
ロシアの情報機関は、汚い政治工作は言うまでもなく、サイバースパイ行為において大いにふさわしい評判を得ている。そして恐らく最も重要なのは、西側の政治的動揺を引き起こすために、ロシアができることは何でもしているとの確信を強めている西側当局者や安全保障専門家が増えていることだ。
一部の人にしてみれば、そのパターンはあまりに明白である。シリア内戦からブレグジット(英国の欧州連合離脱)の是非を問う英国民投票に至るあらゆることに、ロシアの関与、特に権謀術数の天才であるプーチン大統領の関与を信じて疑わない。ロシアは、欧州の統一を邪魔する目的で、同地域に難民を大量流入させるため、意図的に中東、とりわけシリアにおける紛争を悪化させていると考えている。
また、増え続ける無数の反体制派グループにロシアが資金提供しており、従来の政治的コンセンサスを弱らせているとみている。トランプ陣営を後押しするため米大統領選に介入することは、そうした戦略にぴたりとはまり、西側の団結をくじかせ、最近見られなかった行動の自由をロシアに与えている。
これはやむにやまれぬ内部事情によるものだろう。ロシア、特にプーチン大統領が、周辺地域を中心とする世界情勢に対して影響力を回復したいがための戦略を追い求めていることにほぼ疑いの余地はない。その一環として、ロシアが、多くの政治的効果を得るために都合のいい真実やデマを利用して、「情報戦」を積極的に仕掛けているのは間違いない。
ドイツで昨年、ロシア系少女が難民にレイプされたとする事件に関して数多く報じられたが、これら報道はロシアとつながりのある報道機関によるものだったと広く見られている。事件は本当ではなかったが、ドイツの政治的多様性を悪化させ、メルケル首相にとって事態を複雑にさせようとする企てだったように思われる。
しかしこうした戦略がどこまでいくのか、西側当局者や専門家らには正直言って分からない。そのことが彼らを怖がらせ、政府の上層部においてさえ、意見が全く割れている。
「ロシアは他のどの国よりもこのような作戦に長けているが、同国がすべての黒幕だと考えるのは間違っている」と、元欧州治安当局者は語った。
明らかに真実だと言えるのは、プーチン大統領と西側の変わった政治家は、関心やメッセージ、戦術において重なる面があるということだ。多くの点で、トランプ氏のようなエキセントリックでしばしば右寄りの新たな世代は、プーチン政権のルールブックに完全に従っている。
場合によっては、プーチン政権とのつながりが、まさに深部にまで及んでいることもある。資金提供を含む直接的支援をロシアが欧州各国の政党に行っていたとする報告を調査するよう、米議会は情報機関に求めている。フランスの極右政党・国民戦線(FN)は、自国の銀行から借り入れできず、公然とロシアに資金提供者を求めていた。ただし、直接資金提供を受けても、同党の政策には影響しないとしている。
一方、関わりが明白ではない場合もある。ロシアが何らかの方法でブレグジットに関与したとする、主に米分析に基づく思い込みを裏付ける証拠は、意外にもほとんどない。
ではトランプ氏の場合はどうだろうか。同氏の不動産ベンチャーが、時にロシアの投資家に依存しているということにほぼ疑問の余地はない。これら投資家がクレムリン(ロシア大統領府)に近い人物だった可能性も場合によってはある。しかし同氏の事業提携の範囲や時に怪しげな性質を踏まえると、あまり驚くことではないだろう。同氏の選挙対策責任者、ポール・マナフォート氏はかつて、プーチン大統領の同調者と仕事をしたことがある。そのなかでも注目すべきは、親ロシア派で2度失脚したウクライナのヤヌコビッチ前大統領だ。しかし、そのこと自体が直接的な関係を証明するものではない。
米民主党の機密情報を記した電子メールが流出した問題では、同党全国委員会(DNC)のシステムをハッキングしたのは、ロシアに関係する複数の存在であり、コンピューターセキュリティー会社によると、さらにロシア政府とつながりのあるハッカー2人が、それぞれの活動を知らぬまま、関与していたとみられる。だからといって、必ずしもロシア政府がウィキリークスの流出元であるという証拠にはならない。
だが米当局者らは、ロシア政府の関与に一段と自信を深めているようだ。ロシアは長い間、このような情報流出に関係があるとされてきた。一部当局者は、米国家安全保障局(NSA)の元職員エドワード・スノーデン容疑者による暴露(現在、同容疑者はロシア在住)は、ロシアの情報機関の協力があったかもしれないと考えている。しかしこの事件においても、皆が必ずしもそうだとは思っていない。
プーチン大統領は、クリントン前米国務長官よりもトランプ氏に米大統領になってもらいたいのだろうか。恐らくそうだろうが、プーチン氏はここ数カ月、明らかに支持していると思われるようなコメントはしないようにしている。
それよりも重要なのは、クリントン氏が国務長官だった時代のオバマ政権とクレムリンの関係が、あまり良くなかったことだろう。
米国がロシアの反政府勢力に肩入れをしすぎ、それは明らかに内政干渉だとロシアは考えていた。ロシアが米国に仕返ししようと決めたとしても、さして意外なことではない。
しかし、もしそうだとしたら、ロシアの大統領は願い事には慎重になる必要があるかもしれない。一段と不安定化する西側は、ロシアの短期的利益にはかなうかもしれないが、長期的にはロシアも他国同様、苦しむことになるかもしれないのだから。
*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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