コラム:オバマ、トランプ両氏が同意する「ただ乗り」問題

コラム:オバマ、トランプ両氏が同意する「ただ乗り」問題
 6月22日、テロ対策から移民問題、医療改革に至るまで、オバマ米大統領と、共和党の大統領候補指名を確実にしているドナルド・トランプ氏は何かにつけて意見が異なるが、互いに蔑視する両氏の意見が一致する点が1つある。写真は7日、ポーランドで開催されたNATO同盟国による軍事演習「アナコンダ16」(2016年 ロイター/Kacper Pempel )
Josh Cohen
[22日 ロイター] - テロ対策から移民問題、医療改革に至るまで、オバマ米大統領と、共和党の大統領候補指名を確実にしている不動産王ドナルド・トランプ氏は何かにつけて意見が異なる。
オバマ大統領はトランプ氏の移民政策は「危険思想」であり、「無分別でだらしない」と批判する。一方のトランプ氏はオバマ氏を「出来損ないの大統領」と呼び、「ひどい仕事をした」と批判する。
だが、互いに蔑視しているにもかかわらず、両氏の意見が一致する点が1つある。それは、外交政策について、米国はあまりにも多くの「ただ乗りする」北大西洋条約機構(NATO)同盟国を支援しており、彼らは自国の防衛に十分に貢献せず米国の軍事支援に便乗している、という点である。
米国にとってのNATOの意義という質問は、外交を担う政府当局者の多くにとって鬼門だ。実際のところNATOがどの程度、米国の国益を促進しているのか、問いただされても仕方ない面があるからだ。
国土の東西を大西洋・太平洋に、南北を安定した隣国に挟まれている米国は、近隣において国の存亡を左右するような脅威に面していない。
核兵器を保有するロシアは、確かに米国を何回も破壊し尽くす能力を持っているが、米国からもロシアに対して同じことができる。ロシアのプーチン大統領には好ましくない特質がたくさんある。だが、国家的な自殺願望は、そこには含まれていない。
米国政府は、財政面でも貧乏くじを引いている。NATOは各加盟国が国内総生産(GDP)の最低2%を防衛費に投じることを勧告しているが、2015年のNATO統計によれば、この目標を達成しているのは5カ国(米国、ポーランド、エストニア、英国、ギリシャ)にすぎない。
これ以外のNATO諸国のGDPを合計すると約20兆ドル(約2043兆円)に達し、米国のGDPより3.5兆ドルも多いにもかかわらず、こうした食い違いが生じているのである。
欧州諸国の「ただ乗り」の特に顕著な例が2つある。
バルト3国はいずれもロシアによる侵略を恐れており、米国に対し、NATOに基づく「集団的自衛」の原則を尊重するよう求めている。だが、リトアニアのグリバウスカイテ大統領は、その激しい反プーチン的発言から「鉄の女」とアナリストらに評されているものの、同国の防衛費はGDPの1.14%にすぎない。これではグリバウスカイテ大統領も、「バルト海のマーガレット・サッチャー」どころか、威勢のいいネズミ程度でしかない。
防衛費の対GDP比率がわずか1.06%のラトビアはさらにひどい。バルト3国は確かに、プーチン大統領麾下(きか)の戦車がいつでも自国の国境を越えてくる可能性があると考えているのかもしれないが、仮にそうだとしても、これら諸国の軍事体制にはそうした懸念が反映されてはいない。
また、米国の指導者は、ドイツのメルケル首相とも厳しい協議を行う必要がある。ドイツの経済規模は欧州では群を抜いて大きく、GDPは4兆ドルに迫っている。だが、2015年のドイツの防衛費はGDPの1.18%にすぎず、300億ドル程度である。
ドイツ軍の装備状況を見ても不信感は募るばかりだ。ドイツ軍の輸送機はいつでも飛べる状態というわけではない。ドイツ軍も、戦車、ヘリ、戦闘機などの多くが作戦可能状態にないことを認めている。とりわけうんざりさせられる例として、2014年に行われたNATOの大規模演習では、ドイツ軍部隊は不足していた重機関銃を補うためホウキの柄を代わりに使ったのである。
さらに、NATOがロシアと対立しているにもかかわらず、ドイツ政府はロシアの国営天然ガス独占企業ガスプロムと取引している。昨年9月、ガスプロムはさまざまな欧州企業とのあいだで、ドイツとロシアを直接結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の建設に関する合意を締結した。
「ノルドストリーム2」は、中欧・東欧のドイツの同盟国(ウクライナを含む)を迂回(うかい)するもので、これら諸国としては、通過料収入を失うとともにロシアに対する発言力も衰えてしまう。
NATO内のドイツ同盟国は「ノルドストリーム2」を歓迎していないが、ドイツのガブリエル副首相は昨年10月にモスクワを訪問した際、ロシア側に対し、「ノルドストリーム2」は「引き続きドイツ当局の管轄下にあり、外からの邪魔が入る機会は限定的だろう」と述べた。
ドイツが自国の経済的利益、安全保障上の利益を追求するのはおおいに結構である。たとえ「ノルドストリーム2」のような計画が、ロシア政府に対する西側諸国の制裁の効果を弱めるとしても、だ。しかし、この種の利己的な振る舞いがあると、米国の政策担当者たちは、NATOの現在の構造が、厳密に米国の国益をどれだけ促進しているのか、じっくり真剣に考えざるを得なくなるだろう。
米国にとって好都合なことに、ワルシャワで開かれる予定のNATO加盟国首脳会議は、米国の政策担当者がNATOの目的と構造を考え直す絶好の機会を与えてくれるだろう。
第一に、NATOへの新規加盟を認めるかどうか協議するのは久しぶりである。NATOは軍事同盟であって読書クラブではない。これ以上(特に旧ソ連圏内に)拡大する場合には、米国は、新規加盟国はもとより、既存の加盟国を防衛するために戦う能力と意思が自国にあるかどうかを評価すべきである。
第二に、米国の政策担当者は、NATOの同盟国に対し、防衛支出の増額に真剣に取り組む時が来たことを告げるべきだ。米国を除く27カ国のNATO加盟国がすべて、防衛支出を各国GDPの最低2%に増額すれば、防衛支出は合計1320億ドル増えることになる。NATO全体の能力に確かな影響を与えるには十分な額だ。
おだやかな勧告にも多少の厳しさを加えるために、米国政府はGDP比2%の防衛支出を達成していないNATO加盟国23カ国に対し、この目標達成までに5年の猶予がある一方で、もし達成できなければ、米国による防衛の保証を放棄するリスクがあることを告げるべきである。極端に聞こえるかもしれないが(そして恐らく米国が決してやりそうにないことではあるが)、少なくとも欧州各国の気持ちはまとまるだろう。
またオバマ大統領は、バルト3国、特にリトアニアとラトビアの首脳とは個別に会談を行う必要がある。抱いている懸念が本当にその言葉通りならば、バルト3国は、存亡を左右するレベルの脅威に直面しているという自覚のある、もう1つの小国、イスラエルの例に倣うこともできる。イスラエルの人口は800万人にすぎないが(そのうち25%以上は兵役を免除されている)、防衛予算にGDPの5%以上を投じており、16万人規模の常備軍を保有している。
対照的にバルト3国は、人口は合計600万人だが、現役の兵士は計2万2000人にすぎない。バルト3国の防衛のために米国が血を流し国富を投じることを期待するのなら、バルト3国は常備軍の人員を合計8万人(それでもイスラエルの半分にすぎない)まで増やすべきだ。そして、ラトビア、リトアニア両国は対GDP比2%というNATOの防衛支出目標の達成という点でエストニアに続かなければならない。
最後に、欧州委員会のユンケル委員長は欧州連合(EU)に対し、NATOとは別に独自のEU軍を形成するよう呼びかけているが、米国はこれを強く支持すべきである。
ユンケル委員長は、「独自の軍を持つことにより、欧州は加盟国または近隣国における平和への脅威に対して、もっと信頼感のある対応を示すことができる。EU軍の存在は、われわれが欧州の価値観を真剣に守ろうとしているという明確なメッセージをロシアに伝えることになろう」と述べている。
米国の立場から見ると、この主張は完全に理にかなっている。EU軍があれば、米国の同盟国が自国の防衛に関してより大きな責任を担うようになり、オバマ大統領がよく口にする「アジア重視」戦略をより効果的に進めることも可能になる。
確かに、EU内部に見られるたくさんの対立を考えれば、EU軍など夢のまた夢のように見えるかもしれないが、それでもやはり、米国政府は同盟国に対し、その実現を追求するよう促すべきである。
米国がNATOの同盟国を見捨てる必要はない。だが今こそ、米国政府は、NATO諸国が防衛負担を自ら担うよう主張すべきときなのである。
*筆者は米国際開発庁(USAID)の元プロジェクトオフィサーで、旧ソ連の経済改革プロジェクトに従事した経歴を持つ。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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