〔Market Views〕日銀マイナス金利導入で株高・円安、「副作用」の懸念も

[東京 29日 ロイター] - 日銀は29日の金融政策決定会合で、当座預金に0.1%のマイナス金利を適用する追加緩和を決めた。発表後、日本株は荒い動きとなったが、終値は476円の大幅高。ドル/円 は一時121円台まで上昇したほか、10年最長期国債利回りは初の0.1%割れとなった。市場では今後の緩和策への期待を残したとの見方がある一方で、マイナス金利の副作用などを懸念する声も出ている。
市場参加者の見方は以下の通り。
<株式>
●株高はサプライズ反応、効果など検証へ
<三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト 市川雅浩氏>
そこまではないだろうと思っていた。賛成5で反対4と、決定は際どいところであった。必ずしも日銀のボードメンバーに前向きに採用されている感じでもない。まずはサプライズで日本株は買われたが、その後日経平均の上げ幅は縮小した。マイナス金利の中身や効果を評価しあぐねている感じだ。夕方に黒田総裁の記者会見が控えている。経済全体への影響を含め、市場による検証が今後進んでいくとみている。
●禁じ手導入で決意示す
<マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆氏>
欧米中銀が政策変更を見送るなかで日銀が単独で動いても効果が薄い、もしくは手詰まり感が出るとみていたが、マイナス金利導入のインパクトは大きい。日本は預金量が多いうえ、銀行への悪影響が大きいことから、マイナス金利導入は禁じ手とされていたが、それを覆したことに日銀の決意のすごさを感じる。
日経平均は上昇一巡後に下げに転じたが、これはマイナス金利の適用が当座預金の一部にとどまり、小出しに終わったとの認識が広がったためだろう。ただ今回は小さな一歩だが、今後マイナス金利の適用部分を広げる余地はある。今年の株式市場はアベノミクス相場の限界で下げるとみていたが、今回の日銀の決定を受けて株価見通しを修正する必要がある。
<為替>
●ドル/円下値堅く、量的緩和温存で期待継続
<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>
日銀の黒田東彦総裁が付利に消極的だっただけにサプライズとなった。それだけに相場への影響が大きく出た。この後、ロンドン、ニューヨークの各市場でドル買い/円売りの蒸し返しもありそうだ。インパクトの見極めには、地球を一周する必要がある。
もう一つのサプライズが、一部で予想されていた国債購入などの「量」のカードを切らなかった点だ。先行きは、原油価格や中国株の動向を警戒する必要はあるが、量的緩和のカードが温存されているので、3月会合にも期待がつながる。
ドル/円の下値は固くなった印象だ。これまでレジスタンスとなっていた120円は割りにくくなってくる。121─122円にレンジが切り上がる可能性がある。
●ショック的な円売り、中長期的効果に疑問も
<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>
日銀のマイナス金利導入に対して、為替市場はショック的な円売りで反応した。
日銀は量的な金融緩和のテクニカルな限界を、金利の世界に転換することで乗り越える苦策を講じたと言えるだろう。ただ、マイナス金利導入については、審議委員のうち5委員の賛成に対して4委員が反対しており、日銀内でも効果に懐疑的な見方があるようだ。
先行してマイナス金利を導入した欧州中央銀行(ECB)に対しては、既にマイナス金利限界説も浮上しており、マイナス金利が実体経済に実効的かつ中長期的な効果を及ぼすか否かは不確実だ。
市場の反応も時間の経過とともに剥げ落ちる可能性が高い。
●副作用を懸念、効果も長く続かず
<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>
日銀は予想された追加緩和策の中で最も踏み込んだ措置を決めたが、9人の政策委員のうち4人が反対していることを見ても、副作用が相当懸念される政策であることが分かる。
今後、日銀の政策をウォッチする上では「マイナス幅の拡大」を視野に入れることになるが、マイナス金利のコストは金融システムから消えてなくなるわけではなく、誰かが負担する。それは当座、金融機関ということになるが、マイナス幅が拡がっていけば、どこかで利用者へコストが転化される臨界点がやってくる。既にユーロ圏ではそのような動きが出始めている。その時、マイナス金利政策は緩和策ではなく、引き締め策になってしまう。
年初以来の市場の混乱は中国経済の減速が発端であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)が緩和強化策を打ち出しても、根本的な問題の解決にはならない。効果はもったとしてもせいぜい1週間程度にとどまるのではないか。
●円安進みにくい環境、打ち止め感出ずとも
<ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 上野剛志氏>
量的緩和には限界があるため、いずれ付利引き下げやマイナス金利に乗り出さざるを得なかった。日銀の黒田東彦総裁は直前まで付利引き下げに否定的だっただけに、市場にとってはサプライズとなった。
マイナス金利は日米金利差拡大につながるため、明らかに円安材料となる。さらなるマイナスもあり得るので、打ち止め感も出にくい。
ただ、これまで緩和策を打ち出してきた際のようには、一方的に円安に進むシナリオは描きにくい。世界市場が不安定なため、リスク選好でどんどん円を売る流れになりにくいし、米国の経済指標もさえない数字が続いていて3月追加利上げの期待も後退しており、ドルも買いにくい。
日米欧の次回の中銀会合が集中する3月後半にかけ、政策期待からドル/円が上昇するとしても、昨年来の高値圏となる125円の突破は難しそうだ。
<金利>
●長期金利は-0.1%まで低下余地
<東海東京証券・チーフ債券ストラテジスト 佐野一彦氏>
日銀は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した。当座預金残高を3段階の階層構造に分割。基礎残高にプラス0.1%、マクロ加算残高にゼロ%、政策金利残高にマイナス0.1%の金利を適用する。マクロ加算額の算出方法など理解しにくい部分があるため、日銀からの説明をじっくりと聞いてみたい。
国債買い入れを軸にしたマネタリーベース積み上げは変わらないため、日銀はマイナス金利であろうと、かなり突っ込んだ水準で国債を買わざるを得なくなるだろう。10年最長期国債利回り(長期金利)はマイナス0.1%まで低下する可能性がある。
黒田総裁がこれまで否定してきたマイナス金利政策に、あえて踏み切ったことは、これまでの量的・質的金融緩和だけでは、十分な効果が発揮できていないということなのだろう。新しい政策ステップに入るとともに、政策の手詰まり感を露呈したともいえる。
●イールドカーブはブル・スティープ方向
<みずほ証券 シニア債券ストラテジスト 丹治倫敦氏>
国債の買い入れが限界に近づいているとの見方があったが、国債の買い入れ増額を行っても出がらし的な感じになるということだろう。それを防ぐために新しいことをやるということで、マイナス金利の導入を決めたのではないか。
足元の金利が下がり、全体のイールドカーブが下がっている。量的・質的金融緩和(QQE)の量的な拡大が困難になると、金利を下げるしかなくなり、マイナス金利の幅を拡大する可能性がある。
今後は全体的に金利が下がる状況で、イールドカーブはどちらかといえば、ブル・スティープな方向性になるのではないか。

金融マーケットチーム

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